用語集

ナラティブ・アーク(作品をまたぐ物語の流れ)

一つの物語を超えて広がる、語りのより大きな流れ。複数の作品にまたがったり、シリーズを通して人物を追ったり、型にはまらない展開やテーマの深まりを表したりします。

最終更新

ナラティブ・アークは、ストーリー・アークよりも広い考え方で、一つの作品の枠を越えて、語りのより大きな形を表すものです。ストーリー・アークが一つの物語を始まりから終わりまでたどるのに対し、ナラティブ・アークは、テレビドラマのシリーズ全体を通した人物の変化や、ある作家の作品群をつらぬくテーマの深まり、何巻にもわたる大河物語の感情の流れまでを含むことができます。一つの筋よりも大きな構造のなかで、意味がどう積み重なっていくのかを考えるための道具なのです。

『ブレイキング・バッド』の五シーズンを通したウォルター・ホワイトのナラティブ・アークは、どの一話のストーリー・アークよりもはるかに大きなものです。教師から麻薬王への変貌という、どの一話にも収まりきらない流れをたどっているからです。トールキンの『シルマリルの物語』『ホビットの冒険』『指輪物語』をつらぬくナラティブ・アークは、何千年にもわたって魔法の力が衰え、人間の時代が訪れていくさまを描いています。トニ・モリスンの小説は、一冊ずつにはそれぞれ完結したストーリー・アークがありますが、まとめて読めば、奴隷制から二十世紀に至るまでのアフリカ系アメリカ人の経験を探る、一つのナラティブ・アークをかたちづくっています。

ナラティブ・アークは、ストーリー・アークのような整った「始まり・中盤・結末」に収まらない、型破りな構成を考えるのにもふさわしい概念です。『フィネガンズ・ウェイク』のような円環する物語、同じテーマにより深い次元で何度も立ち返る螺旋状の構成、『ビラヴド』や『メメント』のように時間がばらばらに切り刻まれた物語は、ふつうの意味でのストーリー・アークを欠いているかもしれません。それでも、そこには力強いナラティブ・アークがあります。読者の理解そのものが、混乱から発見へと、独自の流れをたどって深まっていくのです。シリーズや、何冊にもわたって登場する人物、型にはまらない構成を計画するときは、ストーリー・アークではなく、ナラティブ・アークの視点で考えましょう。

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