非線形の語り(ノンリニア・ナラティブ)
出来事を時系列どおりではない順序で示す語り方。
最終更新非線形の語りとは、出来事を時系列どおりに並べず、過去から現在、未来へという予想される流れを崩して、テーマの響き合いや感情の論理、あるいは人物が心のなかで体験している時間に従った構成をとる語り方です。出来事を起きた順に語るのではなく、最も意味や衝撃が生まれる順序に並べ直すのです。この技法では、読者自身が時系列を組み立て直すことになり、物語の意味をつくり上げる作業の参加者になります。
クリストファー・ノーランの映画『メメント』は、物語を時系列の逆順に語ることで、新しい記憶をつくれない主人公の状態を観客に追体験させ、構成そのものを人物の状態をのぞく窓にしています。ジョーゼフ・ヘラーの『キャッチ=22』では、断片的で、ぐるぐると巡る時系列が戦争の不条理と心の傷を映し出し、スノーデンの死の場面に何度も戻っては細部を加えていき、ついにその恐ろしさのすべてが明かされます。ジェニファー・イーガンの『ならずものがやってくる』は、何十年もの時間と大勢の人物のあいだを跳び回り、非線形の構成を生かして、時間が人と人間関係をどう変えていくのかを、時系列どおりの語りではとらえきれないかたちで描いています。アルンダティ・ロイの『小さきものたちの神』は、過去と現在のあいだを取り憑かれたように行き来し、中心にある悲劇を伏せたまま細部を積み重ねて、最後に明かされる真相を胸をえぐるものにしています。この非線形の構成は、心の傷が整然とした順序ではなく、断片となって記憶によみがえるあり方を映し出しているのです。
非線形の構成は物語のためにあるべきで、書き手の才気を見せびらかすためのものではありません。時系列を崩す前に、その並べ替えで何が得られるのかを問いましょう。意味のある並置が生まれるのか、情報を戦略的に伏せることでサスペンスが生まれるのか、人物の心の状態を映し出せるのか。時間を跳ぶたびに、そこに目的が感じられるべきです。日付、年齢、状況を示す手がかりなど、読者が苦労せずに自分の位置を確かめられるだけの目印を用意しましょう。目指すのは、出来事はこの順序でしか語れなかった、構成そのものが意味の一部なのだと読者に感じてもらうことです。