生きた会話文の書き方
よい会話文は、何の苦労もなく書かれたように聞こえます。皮肉なことに、会話文は上手に書くのがいちばん難しいもののひとつです。現実の会話は、意味のないつなぎの言葉や繰り返し、行き先のないやりとりであふれています。小説の会話文には、そのどれも許す余裕がありません。自然に聞こえることを求められながら、現実の話し言葉がめったにしない仕事までこなさなければならないのです。人物像を浮かび上がらせ、プロットを進め、緊張を高める。しかも、たいていは同時にです。
サブテキストの原則
会話文でいちばん大切なルールはこれです。登場人物に言いたいことをそのまま言わせるのは、ごくまれにとどめましょう。現実の人は、話をそらし、避け、ほのめかし、核心の周りを回りながら話します。登場人物もそうあるべきです。
サブテキストのない会話:
「私じゃなくてあなたが昇進したのが、妬ましいの」 「そう感じさせて悪かったよ。でも頑張ったんだ」 「知ってる。ただ、私のほうがふさわしかったと思ってしまうの」
サブテキストのある会話:
「で。角部屋ね」 「そんなに広くないよ」 「ううん、すごいじゃない。実力よ」彼女はコーヒーを手に取った。「ハヴァフォード社の案件ももらったの? それとも部屋だけ?」
2つ目では、どちらも「妬ましい」とも「悪かった」とも「ふさわしい」とも言っていません。それでも、緊張はかえって鋭くなっています。読者は口に出されなかったことを自分で補い、その推し量る行為が、物語への思い入れを生むのです。
人物ごとに口調を変える
発話タグを隠して誰が話しているのか分からないなら、登場人物の話し方が似すぎています。口調の違いは、いくつかのところから生まれます。
- 語彙。十代の若者、大学教授、整備士では、手に取る言葉が違います。戯画になるほどの違いではなく、さりげない違いです。整備士が「そのとおり」と言うところで、教授なら「まさしく」と言うかもしれません。
- 文の長さ。長く、あちこち寄り道する文で話す人もいれば、ぶっきらぼうな人もいます。話すリズムに、その人物の性格を映しましょう。
- 口にしないこと。決して謝らない人物は、しょっちゅう謝る人物と同じくらい多くを語ります。
- 口癖。これは控えめに使いましょう。いつも「いいか」と切り出す人物や、問いかけの最後に「だろ?」を付ける人物は、戯画にならずに個性を出せます。口癖は1人につき1つまでです。
発話タグは少ないほどいい
「と言った」は目に入りません。読者の目は、助詞の「は」や「を」と同じように、そこを素通りします。これは欠点ではなく長所です。発話タグが、会話文そのものと張り合ってはいけません。
書きすぎた例:
「もう行かなきゃ」と彼女は必死に急き立てた。 「俺はどこにも行かない」と彼は反抗的に言い返した。
すっきりした例:
「もう行かなきゃ」と彼女は言った。 「俺はどこにも行かない」
2つ目の例は読者を信頼しています。言葉そのものと、二人のあいだの対立が感情を運んでいます。どう感じればいいかを、タグで読者に指示する必要はありません。
長いやりとりに区切りを入れたいときは、タグの代わりに動作の描写を挟みましょう。
「見つけたものがあるの」マヤは二人のあいだのテーブルにフォルダーを置いた。「お父さんの書斎で」 デイヴィッドはそれに手を触れなかった。「入るなと言っただろう」
動作の描写は、会話を具体的な空間につなぎとめ、しぐさで人物を見せ、テンポを整えます。「言った」をひとつも使わずにです。
リズムと割り込み
現実の会話にはリズムがあります。人は相手の話をさえぎり、言葉を濁し、話題を変え、また元に戻ります。会話文にもそれを映しましょう。ただし、収拾がつかなくならない程度にです。
話をさえぎられるときは、ダッシュ(――)を使います。
「一度でいいから、ちゃんと聞いてくれれば――」 「聞いてきたさ。何年も」
言葉を濁すときは、三点リーダー(……)を使います。
「もしかしたら、私たち……ううん、なんでもない」
緊張が高まったら、会話をすれ違わせましょう。
「弁護士には電話したの?」 「庭がきれいね」 「エレナ」 「今朝、バラに水をやったのよ」
はぐらかすこと自体が、どんな直接の答えよりも多くを語っています。
会話文の中の説明
会話を殺すいちばんの近道は、読者には必要でも、登場人物はとっくに知っている情報の運び役にしてしまうことです。
「ご存じのとおり」の罠(英語圏では "As You Know, Bob" と呼ばれます):
「ご存じのとおり、わが社は1987年にあなたのお父様が創業し、ガレージで始めた小さな商売から東証プライム上場の大企業にまで育て上げた会社です」
こんな話し方をする人間はいません。二人とも知っている情報なら、わざわざ口にする理由がないのです。代わりに、その情報が自然に浮かび上がる理由を見つけましょう。
「あなたのお父さんは、ガレージからこの会社を始めたのよ」 「やめてくれ」 「あなたが今この会社にしていることを知ったら、さぞ嫌がったでしょうね」
これで過去の経緯が、葛藤のために使われるようになりました。この人物がそれを口にするのは、武器になるからです。読者に歴史の授業が必要だからではありません。
声に出して読む
会話文をよくするいちばん効果的な方法ですが、気恥ずかしいせいで、ほとんどの書き手が飛ばしてしまいます。会話文を声に出して読みましょう。もごもごとつぶやくのではなく、ふだん話す声の大きさで、本当に口に出すのです。目が見落としたものを、耳がとらえてくれます。
- ひと息では言えないほど長い文
- その人物なら絶対に使わない言葉
- 直前のせりふに筋の通った形でつながらない受け答え
- ぎこちない、あるいは単調なリズム
声に出して読んで恥ずかしくなるせりふは、たぶん書き直しが必要です。その直感を信じましょう。
手早くできる診断
書き上げた会話のシーンについて、次の4つを自問してみましょう。
- この会話で、それぞれの人物は何を求めているか?どちらも何も求めていないなら、そのシーンには緊張がありません。
- 口に出されていないことは何か?すべてが表に出ているなら、サブテキストを加えましょう。
- タグがなくても誰が話しているか分かるか?分からないなら、口調を描き分けましょう。
- この会話で何かが変わるか?関係、計画、信念。始まりと終わりで人物が同じ場所にいるなら、そのシーンは役目を果たしていません。
会話文はPlotiarで書いて磨きましょう。共同編集できるドキュメントエディターでシーンを書き、共同執筆者からリアルタイムで意見をもらい、推敲を重ねるなかで会話文がどう変わっていくかを記録できます。無料で試す。